"The Dancing Chain" Frank.J.BERTO2009/05/11 20:55

変速機付き自転車の歴史についてのおそらく唯一の本です。この本より優れたものがあれば是非教えていただきたいです。当時の広告、特許図面、写真などをふんだんに使っており流し読みをしていてもおもしろいですが、核心は本文にあることが凡百のカタログ本と違うところです。この本は自転車が今ある形式に進化するまでの歴史を当時の技術的課題、それを解決するための各社の技術、マーケットが決めたそれら技術の運命をたどりながら解説してくれます。VeloPressという出版社から出ています。歴史とともに、よりスムースな変速をするためのスプロケット形状やシフターピンの働き、変速機の工夫やドライブ効率といった重要な問題から、一見、なんとなく作られたようにもみえるディレイラーのケージの形の意味まで説明してくれます。 ところで、わたしの自転車には10速の変速機がついています。カンパニョーロ社が10速の変速機を製品化したのは2000年のことですが、実はそれを遡ること95年、1905年には世界最初の10速変速機付き自転車をTerrot Levocycletteというメーカーが製造しています。ハンドルの握りを廻して変則するグリップシフトを発明したのはSRAM社だと思っていましたが、100年前に作られていたTerrotの10速自転車は既にグリップシフトです。その技術が継承されずに21世紀を待たなければならなかった理由はもちろんあります。Terrotの自転車はいわゆる"Lever Cycle"でした。回転する丸いチェーンの輪はなく、チェーンは開いています。原始時代のひとびとが火を起こすために弓のような道具を使い、紐に棒を絡めて左右に振りながら棒を廻す様子を思い浮かべてください。紐がチェーン、棒はスプロケットをつけた車軸です。車軸をフリーハブにつけておけば車輪は一方向に回転します。それがレバーサイクルの仕組みでペダルは左右ともバタバタ踏むだけです。この自転車は快適に走ることが出来たようですが、最大の欠点はサイクルの半分は加速できません。レースには不向きでした。そういう理由から今のような閉じたチェーンの輪を使うようになり多段変速は難しい課題となりました。他にもおもしろい話はいろいろ読めますので自転車好きの方にはご一読をお勧めします。

追記:わたしが憧れている大きな前輪がついたダルマ自転車は当時、地上最速の乗り物だったのだそうです。平均時速30km/hを120rpmのケイデンスで達成したのが当時のレコードです。ダルマ自転車はクランク長さ20cm弱、ホイール径はレース用"High Cycle"では2m近いですから、今のロードバイクの52-12の組み合わせの10倍くらい重いことになると思います。それを120rpmで廻すのですからたいした脚力ですね。